嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「ねえ」

「ん?」


沈黙が包み込んで、眠気が私を襲ってきた頃。
それを阻止する様に正輝が私の方に顔を向けた。


「学校の中、案内してよ」

「え?今?」

「うん」


“当然”と言う様な顔をする正輝に苦笑いを浮かべる。
それもそうだろう。
だって今は5時間目の真っ最中で、サボっている身としてはココで大人しくしている方がイイだろう。


「先生に見つかったら面倒くさいよ?」

「いいよ、そんな事」


サラリと言い放って笑顔を見せる正輝は怖いもの知らずというか真っ直ぐと言うか。
少し呆れながらも笑ってしまう。
でも、私も似たようなものかもしれない。
だって。


「分かった!じゃあ行こうか!」


結局、キミと同じ事をしようとしているんだから。

勢いよく起こした体。

正輝の方を見て笑顔を向ければキミも白い歯を見せて笑った。


「うん、ヨロシク、和葉」

「任せておいて!見つからない様に静かにね!」


人差し指を唇に近付けて『シーッ』と言えば、正輝も同じポーズをとる。
2人で顔を見合わせて、笑って。

眩しい光を背に、私たちは同時に駆けだした。
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