嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「和葉、行ってらっしゃい!気を付けてね!」

「行ってらっしゃい」


お母さんとお父さんに送られて家を出るのは何年振りだろうか。
今でも共働きの2人。
一緒に朝を過ごしたのも久しぶりで、少しだけくすぐったかった。


「お母さんも、お父さんも、行ってらっしゃい!」


おどけた様に敬礼をする私。
扉を開けようとすれば、ドタドタと階段を駆け下りる音が聞こえてきた。


「和葉!一緒に行こう!」


それはスーツを着たお兄ちゃんで。
玄関にいる私を見るなり笑顔を浮かべた。


「えー……恥ずかしいよ!」


仲が良いとはいえ、いい年をした兄妹が2人で朝から歩くというのは抵抗があった。
だって、昨日は色々あったし。余計に照れくさい。


「何照れてるんだよ」

「本当に仲が良いわねあなた達」

「ああ、自慢の兄妹だな」


お母さんにもお父さんにも。
私たちの間に起きた事は言っていなかった。
だからずっと仲が良い兄妹だと思っているだろう。
でも、それでいいんだ。


「……うん、私の自慢のお兄ちゃんだから!」

「……ああ、俺の自慢の妹だからな!」


2人で顔を見合わせて笑い合う。
そんな私たちをお母さんたちは見つめていた。


「遅れるぞ!」

「あ、いってきまーす」

「行ってきます」


お父さんの言葉で、私もお兄ちゃんも慌てた様に玄関を出る。
2人の笑顔に送られながら。
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