嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「だから一緒に行こうって言ってるだろう!?」

「嫌だって、早く行けば?」


外に出れば正輝のお兄さんと正輝が何やら言い争っているのが真っ先に目に映った。
お兄ちゃんと2人で近付けば、正輝は安心した様にタメ息を吐く。


「遅い。やっと解放される」

「解放ってなんだよ!」

「痛ッ……ちょっとやめなって……」


正輝とお兄さんはじゃれ合っていた。
キミの頭をお兄さんが拳骨でグリグリとしていて。
何処からどう見ても仲の良い兄弟だった。


「ふふっ!仲良いね!」

「笑い事じゃない、助けなよ」


正輝は私に手を伸ばすがそれを掴むことなく笑って見ていた。
だってキミの顔は嫌そうに歪んでいたけれど。
どこか嬉しそうだったから。


「……和葉!遅刻するんじゃないか?」

「わっ……やばい!正輝、遊んでないで早く行くよ!」


お兄さんとじゃれ合うキミの手を掴む。


「遊んでないし、ってかアンタが早く助けないからでしょ?」

「痛ッ!?」


強く掴まれた鼻。
呼吸が出来なくてパクパクと口を開けていればキミは笑い出す。
正輝だけじゃない。
お兄ちゃんも、お兄さんも皆笑っていた。


「もう!本当に遅刻しちゃうから!」

「じゃあ行こうか」


恥ずかしくなって、パシリと正輝の手を叩けば、漸く解放される。


「送って行こうか?」

「送るぞ?」


お兄ちゃんとお兄さんが同時に私たちに言うけれど。
私とキミは同時に首を横に振った。


「正輝と行きたいから!」

「和葉と行きたいからさ」


同じ事を言った私たち。
少し照れ臭くて正輝から視線を外す。


「……あーあ……フラれちまったな……」

「俺もだ。白石!一緒に行こうぜ!」

「ああ、フラれた者同士、仲良く行こう」

「お前の車でな!っで帰り飲んで来ようぜ!」

「おい、送らせる気満々だろう?」

「ああ」


お兄ちゃんとお兄さんは何故か肩を組みながら仲良さげに話していた。
元々、友達だったのかもしれないけれど。
昨日の件で、更に仲を深めたみたいだ。


「早く行くよ」

「あ、うん!」


繋いでいた手を引っ張られて私は歩き出す。
大切な兄たちに送られながら。
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