嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「本当にすまなかった!!」


教室中に響き渡るくらいの大声。

それだけでも驚きなのに。
目の前には地べたに両手をついて頭を下げる加藤くんがいた。
いわゆる、土下座というものだった。

生で見たのは初めてで。
呆然とその光景を眺めていたら、後ろからヒソヒソと話し声が聞こえてきた。


「土下座とかヤバくない?」

「ああ、しかも坊主って反省の印?」

「だっせー」

「いい気味」


クラスメートたちは今まで加藤くんを恐れていた。
彼がこのクラスを牛耳っていたと言っても過言ではない。
そんな彼の土下座姿は、クラスメートたちにとっては痛快なのかもしれない。

だけど。

そんな事をされたって。
胸が痛くなるだけだ。
別に土下座をして欲しくて、クラスで暴露をした訳じゃない。
加藤くんをこのクラスの除け者にしたかった訳じゃない。

ぎゅっと拳を握りしめた。


「……」


私は間違っていたのだろうか。

確かにあの時は頭の中が怒りで支配をされていた。
正輝の事しか考えてなかった。

だけど、途中からは。
クラスメートの事を想って言葉を繋いだつもりだった。
加藤くんに脅されて、自分の意思を持てなかった彼らを救いたかった。

私はあの時、加藤くんの事なんてちっとも考えていなかった。
でも、加藤くんだって、クラスメートの一員じゃん。
いくら皆を脅していたからといって。
皆から仲間外れにされていいって事はない。

その事に何でもっと早く気が付かなかったのだろうか。


「……別にいいんじゃない?土下座なんかしなくても」


自分のした事に後悔をしていれば、隣から呆れた様な声が聞こえてきた。
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