嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
授業をしている教室の横を身を竦めながら見つからない様にコソコソと2人で歩く。
教室から聞こえてくる先生の声。
いやに静かに感じて、少し緊張してしまいそうになる。
授業中に、サボっているだけではなくて、歩き回っているなんて。
湧き上がってくる背徳感。
でも、後ろを振り向けば、楽しそうに笑うキミの笑顔があるから。
まあいいか、って思えるんだ。


「ココが理科室ね!」

「理科室……」


興味深そうにドアの窓を覗く正輝。
中で授業をやっているから入れないけれど。
彼は十分に楽しんでいるみたいだ。
そんなキミを見ていれば正輝は急にしゃがみ込んだ。


「やばっ……」


焦る正輝に理由を聞こうとすれば中から『こらっ!』と怒鳴り声が聞こえた。
呆然としていれば、キミの手が私の手を包み込んだ。

私よりも大きな手。
温かくて、優しいその手のひらに、しっかりと、力強く、握りしめられる。


「行こう」

「ちょっ……正輝!?」


理由を尋ねる暇もなく正輝は走り出した。
手を繋いでいる為、必然的に私も走る事になってしまう。


「こら待ちなさい!!」


後ろから追いかけてくる理科の先生。

どうやらサボったのがバレタ様だ。

運悪く理科の授業をやっていたのはウチのクラスで。
先生は私たちを見るなりに追いかけてきたという事だろう。


「和葉、もっと速く走って」

「もっとって!これでも精一杯走ってる!!」


そんなに足が速い訳ではない。
体力がある訳ではない。

人並みか、それ以下の私。

正輝は私に合わせてくれているみたいだから、1人なら逃げ切れるかもしれない。
そう思って口を開いた。


「先に行って!
一緒にいたら正輝まで捕まっちゃう!」

「……」


手を離そうとしたけれど。
余計に強く握りしめられた。
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