嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
でも、正輝はもう切なそうな顔をしていなかった。
だってキミはもう乗り越えたから。
お兄さんと正輝は本当の家族になったから。
だからどこか清々しい顔で、その事を話せるんだ。
そう思っていれば急に正輝はクラスメートたちを振り返った。


「確かに脅してたこの人が1番悪いけど。
……アンタ達だって無実じゃないよ?
嫌なら断れたよね?
どんな目に合ったっていい、その覚悟があれば断れた。
……和葉みたいに……」


いきなり出た名前に驚いていれば手招きをされる。
恐る恐る近付けば正輝は加藤くんを指さして私に向き直った。


「アンタはこの人に酷い事をされた。
突き飛ばされたり、言葉の暴力を受けたり。
その点ではクラスメートと同じみたいなものだよね」

「いや……別に私は……」

「皆はこの人に従っていたから、ココまでされた人はいないと思う。
だから事実上、アンタが1番の被害者な訳だけど」

「は……?」


正輝の言いたい事が分からずに首を傾げる。
被害者って言われたって……。
戸惑っていればキミは真っ直ぐに私を見た。


「アンタはこの人を許す?」

「あっ……」


そのひと言で漸く分かった。
1番の被害者を私だと確立させて。
その私が許す事で、他の皆も許しやすくなる環境を作り上げようとしているんだ。
まあ、そのやり方もどうかと思うけれど。
咄嗟に思い付くやり方がこんなに回りくどい方法なんて。
正輝は頭がいいのか、不器用なのか分からない。

でも、自分で犯した間違いはちゃんと尻拭いをしたい。
加藤くんが悪者のままで終わるなんて嫌だから。

深く息を吐いて、自分を落ち着かせる。
せっかく正輝がこの場面を作ってくれたんだから。
ちゃんと向き合おう。
このクラスを偽りの友情で結ばれた関係じゃなくて。
本物の友情へと変わる様に。
< 321 / 336 >

この作品をシェア

pagetop