嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「許すと許さない以前に、私は怒ってないよ」

「え?」


すとんとその場にしゃがみ込んで加藤くんの顔を見つめる。


「まあ、確かに……。
皆を脅したこと自体は許せないし、正輝を傷付けた事も許せない、山本くんを苦しめた事も許せない」

「っ……!」

「だけど、加藤くんは悩んで、考えて、どうしたらいいか分からなくて。
それでも何かを変えたくて、頭を丸めたんだって思うから……。
私はそうやって行動をした事が凄い事だって思うよ」

「白石……」

「だって、自分が悪い事をしたって分かってっても。
ううん、分かってるからこそ謝りにくいよね?
それなのに、こうして皆の前で土下座までして。
そんな加藤くんは格好良いと思う。
……謝ってくれてありがとう」


彼の目の前に自分の手を差し出す。
一瞬だけ迷った彼。
でも、しっかりと掴んでくれた。


「さっ立とう」

「……おう……」


彼の手を掴み一緒に立つ。
そして真っ直ぐに加藤くんを見つめた。


「私こそ、傷付けてごめんなさい」

「やめろよっ……もういいから」


深く頭を下げれば、そんな焦った様な声が聞こえてきた。
ゆっくりと頭を上げて彼にお礼を言う。


「ありがとう。
それと、凄く似合ってる」


自分の頭を指して笑顔を浮かべれば加藤くんもギコチナク笑ってくれる。
それだけで進歩だと思う。
そう思っていれば誰かの声が頭の中で響いた。


「(何で許すんだよ……あんな奴)」


やっぱり人間は、ちょっとやそっとでは変わらない。
そう思いながら小さく口を開いた。
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