嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「あー……何か拍子抜けって感じかな……」


屋上のいつもの定位置で空を見上げながら呟いた。
冷たい風が吹き荒れていたけれど。
熱くなった胸を冷ますには丁度良かったんだ。


「何が拍子抜け?」

「んー何か散々さ……心の声の事で悩んできたのに。
口に出せば、スルスルッと上手くいった。
悩んでたのが馬鹿みたいなくらい」


お兄ちゃんだって。
両親だって。
クラスの皆だって。

何だかんだで心の声の事を受け止めてくれたんだもん。


「……まあ、そんなモノでしょ」

「そう?」

「そう」

「そっか」


んっと両手を上げて背中を伸ばす。
ポキッと小さな音が鳴って静かに消えていく。


「でもさ、これから先も……。
俺たちには一生この病気が付き纏ってくる」

「……まあね」

「乗り越えたと思ったら。
また躓いて、悩んで、苦しんで。
どうしようもない気分になるかもしれない」

「まあ、今までだってそうだったしね。
私たちを受け入れてくれるほど世界は甘くない」

「うん」


今回は偶々、運が良かっただけ。
これから会う人たちはどうかなんて分からないし。
考えるだけ時間の無駄だけど、やっぱり不安なんだ。


「だけど……」

「え……?」


正輝の小さな声が空へと吸い込まれていく。
ふいにキミの方を向けば優しく笑う顔が目に映った。


「俺はアンタが傍にいてくれればそれでいい」

「……」

「世界中の人間に嫌われたって。
アンタだけが俺を理解してくれればそれでいいから」


真っ直ぐで、綺麗な瞳が私を捕えて離さない。
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