嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「和葉」


小さく呼ばれた私の名前。
下を見れば心地良さそうに眠る正輝の顔が目に映った。

寝言で呼ばれたと思うと。
余計に恥ずかしいんだけど。

熱くなる頬を押さえながら。
真っ直ぐに海を見つめた。

波の音も、風の音も。

全てが綺麗で。

ココは本当に楽園みたいな場所だった。


「んー……」

「正輝……風邪引くよ?」


ゆさゆさと動かすけれどキミは全く起きない。
寝つきが良い事は知っていたけれど。
ココまで起きないと尊敬しちゃう。
クスリと笑って正輝の頭を撫でた。

正輝も私に出逢って何か変わっただろうか。

私はキミに沢山のモノを貰った。

それと同じくらい。
キミに返せているのだろうか。

そう思っていれば小さな声がもごもごと発せられた。


「_______________」


風の音に紛れてしまうかと思った。

でもちゃんと聞こえたよ。


「……ばーか……起きてる時に言ってよね」

「んー……」


幸せそうな寝顔。
その頬にポタリと雫が落ちた。
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