嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「待てっ!!って……何処に行った!?」


近付いてくる足音。

先生の怒鳴り声。

バクンバクンと揺れ動く心臓を押さえながら息を潜める。
でも、それは違う意味でだ。
先生に見つかるという恐怖よりも……。

チラリと前を見ればすぐ目の前には正輝の体がある。
すぐ後ろには壁、前には正輝。
最早どこにも逃げ場なんかなくて。
隠れる為とはいえ、こんなに密着していたら恥ずかしい。
誰かと、こんなに近い距離になるのはお兄ちゃん以来で。
緊張で頭がおかしくなりそうだ。


「ったく何処に行ったんだよ……」


徐々に小さくなっていく足音に正輝はホッとした様にタメ息を吐いていた。


「和葉?」

「……」

「もう大丈夫みたいだよ?」

「え……ああ……よかった!」


未だ煩く動く心臓。
それを誤魔化す様に笑えば正輝は首を傾げていたけれど、すぐに私から体を離す。

漸く解放された体。
それでも緊張は解けなくて。
まともにキミの顔が見れない。
そんな私の気持ちなんて知らずに、キミは疑問をぶつけてくる。


「ねえ、どうしてココが安全だって分かったの?
普通は危険だって思うでしょ?逃げ場がなくなる訳だし」


顔は見ていないから分からないけど。
声は至って普通で。
緊張をしていたのは私だけだって思い知った。
それが少し悔しくて不貞腐れた様に唇を尖らせる。


「学校の不思議伝説」

「は?」

「月曜日の5時間目はこの空き教室の鍵が開いているって、生徒の中では噂になってるの。
教師は知らないか、信じていないか、人それぞれだけど」


他の空き教室には全て鍵がかかってるし入れないから。
先生は私たちが教室に逃げ込んだとは思わない、と考えたんだ。


「……何それ。
和葉はこの教室が開いている事を知ってたの?」

「ううん、確認した事はなかったけど」

「……」


急に黙り込む正輝。
不思議に思った私は彼の方に顔を向けた。
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