嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「んっ……」

「和葉!!大丈夫!?」


消毒の匂いが鼻を掠めて。
誰かの声が耳を刺激する。

重たい瞼を開けば、目に映ったのは心配そうな正輝の顔。


「馬鹿……心配したんだから」


ぎゅっと私の手を握って『良かった』と何度も繰り返すキミ。
心配を掛けてしまった。
申し訳なくて、『ごめん』と口を開けば『ん』と短く返される。
正輝の体は少し震えていた。
そんなキミに何を言えばいいか分からなくて、とりあえず状況を確認する事にした。


「ココは……?」

「保健室。
アンタ1時間くらい気絶してたよ」

「うそ!?
じゃあ、ずっとココにいてくれたの!?」

「うん」


当たり前、と言った様に頷くキミに胸が温かくなった。


「……ありがとう……」


少し照れくさかったけれど、お礼を言えばキミは優しく微笑んだ。
そして大きな手のひらが、ベッドに寝ている私の頭にのっかった。


「どういたしまして」


キミの笑顔が綺麗で。
キミの声が優しくて。

安心して睡魔が襲ってくる。
でも寝る訳にもいかなくてゆっくりと体を起こした。


「そう言えば……私が倒れた時、正輝が支えてくれたの?」

「……」


一瞬だけ躊躇う様に口を閉ざす正輝。


「ちが……うっ……!!」


そう言いかけてキミは胸を押さえてベッドに倒れこんだ。


「正輝!?」


慌てて正輝の体に手を伸ばし、顔を覗き込む。
苦しそうに歪んだ顔、額に浮かんだ汗。
それはまるで、さっきまでの自分を見ているかの様だった。
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