嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「どうしたの正輝!?」


苦しむ正輝を見ても何も出来なくて。
キミの名前を呼び続ける事しか出来なかった。


「せ、先生を呼んでくる!」


保健室の先生でどうにか出来るかは分からないけれど、私よりはマシだ。
そう判断をした私はベッドから降りようとしたけれど正輝がそれを阻止した。


「だ、だいじょうぶ……だから……」


苦しそうな表情も声も。
汗ばんでいる手も。

私をココから逃がさない様にしていた。


「で、でも……」

「俺が……アンタを支えた……」

「え?」

「アンタが倒れた……時……」


途切れる声でそう言った正輝。


「あ、ありがとね……本当に」


なぜ今それを言うのか。
声を出す事も辛そうなのに。
苦しんでまで何故。
そう思っていれば徐々に彼の顔色は普通に戻っていく。
苦しそうな顔も、和らいで、いつも通りのキミになっていた。

ハァハァと息を整え、胸から手を離す正輝。
よっぽど強く掴んでいたのか、夏服のシャツは皺が寄っていた。


「大丈夫……?」

「うん、もう平気」


さっきまで苦しんでいたのが嘘の様に穏やかな顔をする正輝。
少しの沈黙が保健室を包み込んでいた。
私もキミも喋る事なく、違う所に視線を向けている。

多分、考えている事は同じなんだろう。
そう思いながらも視線を逸らし続けた。
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