嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「ねえ、聞かないの?
……さっきの事……」


さっきの事、それは正輝が苦しんで倒れた時の事だ。
気にならないと言えば嘘になるけれど。
数秒後、私はコクンと頷いた。


「……うん」

「どうして……」


不思議そうに首を傾げる正輝。
そんなキミに向かって小さく笑う。


「だって正輝も聞かないでしょ?私の事」

「あっ……」

「誰にだって抱えているモノはあると思うし。
それを私が簡単に踏み込んでいいとは思わない。
まあ、正輝の事を知りたいって気持ちはあるけど……」


そこまで言って言葉を区切った。
言おうか言うまいか迷ったけれど決意をした様に口角を上げる。


「もし、正輝が言いたくなったら私は全力で聞く!
何も出来ないけど……キミの傍にいて手を握る事は出来るから!」


ベッドに置かれていた正輝の手をぎゅっと掴み笑った。

何を抱えているのかは分からないけれど。
正輝は正輝だから。
私がキミの傍にいる事に変わりはないから。

だから、耐えられなくなったら。
いつでも私を頼ってよ。

その願いが通じたのか、正輝は『ははっ』と声を出して笑ったんだ。


「分かった。
その時はヨロシク、和葉」

「……うん!」

「和葉もね」

「え?」

「アンタが話したくなったら俺は何時間でも聞くから。
その時は俺がずっと和葉の手を握るから」


そう言って手に力を入れる正輝。
彼につられて私も力を強めた。

しっかりと握りあって。
もう離れないんじゃないかってくらいに固く結ばれる手。

それを見ながら静かに呟いた。


「いつか……言えるかな……」

「……待ってるから」


そんな小さな声もキミは受け止めてくれた。

思うんだ。
キミになら、ずっと隠し続けていた私の秘密を話せる時が来るんじゃないかなって。

正輝に会うまではそんな事は考えてもいなかったけれど。
キミなら私の全てを受け止めてくれるかもしれない。

そんな儚い希望が小さく芽生えたんだ。
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