嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「乗って行きなよ、一ノ瀬くん」

「そうだよ!一緒に帰ろうよ!」


私とお兄ちゃんは車から正輝に声を掛けるけれど。
彼は頑なに頷かなかった。


「大丈夫です。家近いんで。
ありがとうございます」


そう言って頭を下げる正輝。
遠慮深いというかなんというか。

でもそんなキミもキミらしくて。
心が温かくなるんだけど。


「……分かった。じゃあ気を付けてな。行くぞ和葉」

「……うん。
じゃあね正輝!また明日!」


ブンブンと大袈裟に手を振る。
まるで一生のお別れみたいだ。

そんな私を見ながら軽くタメ息を吐くキミ。
でも顔は笑顔だった。

“しっし”と手を動かすと『またね』と笑う。

キミの笑顔が眩しくて。
私は目を逸らしそうになるけれど。

いつまでも見ていたくて。
キミの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
< 42 / 336 >

この作品をシェア

pagetop