嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「随分と嬉しそうな顔をしているな」

「え?」


2人きりの車内。
沈黙が包み込む中でお兄ちゃんがボソリと呟いた。
窓の外を見ながら声だけをお兄ちゃんに向ける。


「あの子の前だと凄く楽しそうに笑うんだね。
……あんな和葉を初めて見たよ」


優しいその声に間髪なく頷いた。
正輝の事を考えれば自然に笑顔になれる。
キミの笑顔が私を勇気づけてくれるんだ。


「うん。
正輝は私の親友だから」


まだ出逢って2日しか経っていないのに、親友とは可笑しいかもしれない。
だけど、彼と過ごした時間は短くても、大切なモノだから。
キミの事を親友だって思ってもいいかな……?
心で正輝に訊ねてクスリと笑う。
答えなんて返ってこないけれど、正輝なら……。
『そんな事いちいち聞かないでよ』って照れた顔で言うと思う。
真っ赤に染まった正輝の顔を思い出していれば、衝撃と共に車が止まった。
どうやら赤信号で急ブレーキをかけたらしい。


「お、お兄ちゃ……」


チラリと横を見ればお兄ちゃんの顔が目に映る。
でもその顔は、いつもの優しい顔ではなくて。
恐ろしいくらいに歪んだ顔だった。


「っ……!!」


慌てて口を閉じて声を押し殺す。
何であんなに怖い顔をしているの?
ブルッと肩が揺れる。
ドクンドクンと心臓が揺れ動いて息が荒れていく。


「……」


少しの沈黙の後、車がゆっくりと動き出した。


「悪い、びっくりしただろう?
渡ろうと思ったけれど危ないからと止まったんだ」


一瞬こっちを向いたお兄ちゃん。
その顔はいつも通り優しかった。

さっきの顔は私の見間違いだ。
そう自分に言い聞かせて『ううん』と首を横に振った。
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