嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「お前なら出来るよ(他に何の取り柄もないんだから勉強ぐらいやれよ)」

「っ……が、頑張ってみる……」


悲鳴を上げたかった。
叫びたかった。

でも、何とか呑み込んで頷いた。

必死に作った笑顔を取り付けて。
ヘラヘラと笑いながら視線を落とした。


「……」

「そう言えば今日、お隣の奥さんにお会いしたわよ」

「お隣って、あの新築の?」

「そう!
少し話したんだけど、息子さんは霜月商事に勤めているらしいわよ!」

「霜月商事って俺の会社じゃん」


お兄ちゃんが驚く声だけが耳に響いた。
だけどそれ以外は入ってこなくて。

ドンドンと心が重たくなっていくのが分かった。

学年10位以内とか無理だよ。
取った事ないし。

あの学校は有名な進学校で。
入れたのだって奇跡に近いんだから。

頭がいい人たちの中へ行けば、醜い感情を、心の声を聞かなくて済む。
そう思って必死に頑張って合格をもぎ取った。

でも結局、変わらなかった。

寧ろ、絶望したよ。

ああ、何処に行っても、綺麗な場所なんて存在しないんだって。
私はこれから一生、醜い世界で生きていかなければならないんだって。

逃げ場所なんて無くて、隠れる事も出来なくて。

ただ耐える事しか出来ないんだ。

グッと唇を噛みしめて。
そっと心で呟く。

早く人生が終わればいいのに、って。
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