嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「いつもどうやって勉強してる?」

「んーと教科書を読んで」

「読んで?」

「ノートを見て」

「見て?」

「……書く」


正輝は一瞬、黙り込むとハァと深くタメ息を吐いた。


「まあ、その通りだけどね」


ケラケラと笑う正輝は『んー』と唸ると英語の教科書をペラペラと捲りだした。
暫く教科書とニラメッコをする正輝。
それを見ていれば、彼はいきなりシャーペンを走らせていく。
終わったのか、ノートを私の机に置くと『解いて』と言いながら自分は机に顔を伏せた。


「え?解くって……」


ノートを見れば英語と日本語が書いてある。

英単語の意味を問うものが10問。
日本語で書かれた単語を英語に直すのが10問。
和約が10問。
英訳が10問。

どれも綺麗な字で読みやすかった。
短時間で作った物とは思えない問題。

呆然としていれば、キミの眠たそうな声が聞こえてきた。


「出来たら教えて、分からなかったら言って。
んー30分くらい?まあ、いつでも起こして」

「ちょっ……」

「……」


私の声は虚しく教室へと消えていく。
キミから聞こえるのは返事ではなくて小さな寝息だけ。


「……寝るの早っ……」


驚いてキミを見つめるけれど。
気持ちよさそうなその寝顔に何も言えなくなって。
視線をノートへと移した。
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