嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「……」


数分が経過した頃。
私は頭を捻りながらシャーペンを握りしめていた。

でも、ノートの解答欄はほぼ真っ白で。
私の苦戦ぶりを表していた。

普段、授業なんて聞き流しているだけで。
黒板の字をノートに写す程度だ。
テスト前になって漸く勉強をするくらいで。
だから分かる訳がないのだ。


「……えっとー……」


何とか見た事がある英単語を記憶から拾ってくる。
当たっているか当たっていないかは別として。
とにかく空欄を埋めたい。
そう思うけれど、一向に進まないシャーペン。


「まさ……」


キミを呼ぼうと口を開きかけたけれど。
直ぐに声は消えていく。
だって、こんなに気持ち良さそうに寝ているのに起こすなんて可哀想だ。


「……よっし」


小さく声を出してノートと向き合う。

英単語の意味を覚えてないから和約も出来ないし。
何も出来ないけれど、雰囲気と勘で問題を解いていく。


「んー……」


首を捻りながら、頭を掻きながら。

訳の分からない英語と向き合う。

静かな教室に。
キミの可愛らしい寝息とシャーペンがノートの上を走る音だけが響いていた。
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