嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「……」


どれだけこうしていただろうか。
時間間隔が分からなくなるほど集中していた。
こんなに真剣に机と向き合ったのは前のテスト以来だ。


「んー」


両手を上にあげて伸びをする。
コキッと骨の軽い音が鳴り、小さなタメ息が漏れていく。


「……わっ!!起きてたの!?」


ふと、隣を向けば、寝ている時と同じ体勢だったけれど。
目だけはしっかりと開いた正輝が目に映った。
『うん』と小さく頷いて体を起こすキミ。
もう、眠たそうな顔も声も消えていて。
どこかスッキリとしている様に見えた。


「……分からなかったら聞いてって言ったんだけど」

「あ……えっと……」


正輝はノートを覗き込むと眉間にシワを寄せた。
半分しか埋まっていない解答欄。
まあ、言われていた事は事実だし、少し後ろめたい気持ちになる。


「分からないまま時間だけが過ぎても意味ないでしょ。
もう1時間経ってるじゃん、時間の無駄だよ」


厳しめの口調と声。
その通り過ぎて何も言えない。
流れる沈黙を破る様に口を開いた。


「……ごめん……」

「……うん、今度から気を付けて」

「分かった」


正輝は黙々と赤ペンを手に採点を始めていた。
私はその隣で教科書を読む。
静かなその空間にキミのボールペンの音と教科書を捲る音だけが響いていた。
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