嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「アンタは俺の事を気にして起こさなかった。
それは和葉の優しさだと思うし、悪い事じゃないけどさ。
……気を遣いすぎ」

「え……?」


キョトンとしていれば正輝の手がいきなり私の頭にのかった。
驚いていれば、少し乱暴に撫でられる。


「ちょっ……」


髪の毛がグシャグシャになる。
そう思い正輝の手を掴むけれど、そのまま撫でられ続ける。
キミが何をやりたいかは分からない。
だけど何だろう。
キミに触れられると落ち着く気がする。
フワフワとした気持ちになっていれば急にその手は止まった。


「正輝……」


頭の上にのかったままの手。
それを掴みながら彼の顔を覗き込む。


「ちょっとは甘えなよ」

「あっ……」


紅くなったキミの顔。
少し俯きがちだけど、ぎゅっと結んだ唇。
それは何かを耐えている様にも見えた。


「アンタに気を遣われると嫌だ」

「え……」

「もっと頼ってよ」


いきなり顔を上げたキミの真っ直ぐな目が私の目を捕らえた。
その瞬間に入ってくるキミの心の声。


「(アンタには頼って欲しいから)」


正輝の声が、瞳が。
私の心を動かしていく。


「……分かった……」

「え?」

「今度、正輝が寝てたら容赦なく起こす。
だから……怒らないでね?」


ワザとらしく笑えばキミの顔は益々紅くなっていく。
鏡を見ていないから分からないけれど。
多分、私の顔もこれでもかってくらいに紅いと思う。
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