嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「ねえ、顔色悪いけど大丈夫?」


顔を覗き込もうとする男の子。
心配をしてくれている事くらいは分かっていたけど、私は拒絶する様に顔を背けた。
締め付けられる胸に必死で耐えていれば小さなタメ息が聞こえてきた。


「あーあ……本当に面倒な事に巻き込まれた」


小さな声だけど私にも十分に届いた。
それはさっき、頭の中で響いた声の内容と同じもので。
私は思わず固まってしまう。


「……アンタさ自殺とかやめなよ。
死んだって何も変わらないじゃん」


固まる私をよそにタメ息を吐く男の子。
さっきのも驚いたけれど今の発言も聞き捨てならない。
顔を引き攣らせながら、男の子の目を見ることなくポツリと言葉を落とす。


「自殺なんて考えてないんだけど……」

「……え?」


驚いたその声は小さく消えていく。
何を言われたかを理解出来ていないかの様に男の子は固まっていた。

私は目が合わない様に、彼の顔を見つめる。

茶色いフワリとした触り心地良さそうな髪。
少し吊り上った目、筋が通った鼻、形の良い唇。
端正な整った顔つきでスタイルだって良くて、女の子が騒ぎ出しそうな容姿だった。
たぶん、私と同じ高校生だろう。
そんな事を考えていれば男の子はバツが悪そうに顔を歪めながら口を開いた。


「……ごめん、勘違いした」


謝る男の子を見ながら苦笑いを浮かべる。

自殺に間違われるなんて。
迷惑を掛けたな、そう思って謝ろうとしたけれど、謝罪の言葉は私の口からは出なかった。


「でもアンタが悪いから」


開き直った様に少し口を尖らす男に無性に腹が立った。
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