嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「怒らないし。
……ってか髪の毛ボサボサ」

「ボサボサって!
正輝がやったんじゃん!!」


髪を直そうとすればキミの手がそれを優しく阻止をする。
不思議に思っていればキミの手がゆっくりと動いて私の髪を梳かしていく。


「仕方がないから直してあげる」

「……当然でしょ?」


強気で言えば鼻で笑われる。
でもすぐに2人で顔を見合わせて笑顔を浮かべた。

妙に近い距離。
優しく撫でられる髪。

恥ずかしいのに、どこか心地良くて。

キミの手が動く度に、キミと目が合う度に。

胸の奥がジワリと熱くなっていく。


「はい、出来た」

「ありがとう!どう?可愛い?」


ワザとらしく決め顔を披露すれば一瞬黙り込むキミ。
引かれたかな?
慌てて撤回をしようとしたけれどキミの笑顔が私の言葉を消していく。


「うん、凄くね」

「じょ、冗談だって!
のっからないでよ!恥ずかしい!」


熱くなった顔で怒ればキミは不思議そうな顔で首を傾げた。
その瞳は汚れのない綺麗な色をしていた。


「冗談なんかじゃないよ」

「ばっ……馬鹿」

「なに照れてるの?」

「照れてない!」

「嘘」


暫く言い合っていればどちらからともなく笑い出す。

私もキミも。

偽りのない笑みを浮かべて。

この時間を、ただ純粋に楽しんでいた。
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