嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「あ、それと……」

「え?」


笑い合っていれば急に真剣な顔をする正輝。
私もつられて真剣な顔になっていく。

何を言われるか分からなくて。
妙な緊張感だけが私を取り巻く。


「……アンタの頑張りを否定した訳じゃないから」

「え?」

「和葉は一生懸命に問題と向き合ってた。
途中で投げ出す事も出来たのに、教科書を見る事も出来たのに。
最後まで頑張って考えてた」

「……」

「それは認めてるから。
時間の無駄とか言ってごめん」


正輝の言葉が嬉しくて、思わず涙が出そうになる。

でも浮かんでくるのは涙ではなくて笑顔だった。

キミはちゃんと私を見ていてくれたんだ。

それが嬉しくてキミの頬を両手で包み込み押し潰す。


「な……何するの……」


押し潰されているせいで唇が強制的に尖がって。
格好良い顔が面白い顔へと変わっていく。
でも、整った顔は何をしていても様になっているんだ。
ちょっぴりムカついた私は更に頬っぺたを潰す。


「別に?キミが可愛いからさ」

「何それ」

「……ありがとう」

「え?」

「ちゃんと私を見ていてくれて!」


ニッと笑えば『ふん』と鼻で笑われたけど。
それはきっと照れ隠しだろう。
だって正輝の顔はやけに熱くなっていたのだから。
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