嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「それより、勉強を再開するよ」

「はーい」


渋々と正輝の頬から手を離す。
キミは何事もなかったかの様に私の教科書をトントンと指で叩いて英語で書かれた長文を指していた。


「この英文で分からない単語に全部下線を引いて」

「え?分からないって……」


ざっと英文に目を通したけれど、タメ息しか出てこない。
だって。
以前に習った単語や本当に簡単な単語しか分からない。


「いいから早く線を引いて」

「う、うん……」


目で圧力をかけられ、シャーペンを走らせた。
増えていく下線。
真っ白だった教科書に勉強をしたであろう形跡が刻まれていく。
まだ、何も頭に入ってないけれど。
ちゃんと勉強をしている気分になる。


「終わったみたいだね」

「あ、うん」


気が付けば最後まで終わっていた。
正輝は私から教科書を奪うと、何かをノートへと書き込んでいく。

書き出されていた英単語。
よく見れば下線の数よりは少ない。


「あっ!同じ単語があるから少なく感じたんだ!」


教科書を見て気が付いた事を言えば、キミは楽しそうに笑った。


「そう。全体を見れば分からない単語が多く見えるから、難しく感じるだけ。
……それに見てこの単語」

「ん?」


キミが指をさしたのは教科書の英単語。
でも下線が引いていなかった。


「これは今回のテスト範囲の単語だけど、アンタは下線を引いていない。
これがどういう意味か分かる?」

「意味……?分からない……。
元から知ってたけど……」


どういう意味かって聞かれても上手く答えられない。
困っていればキミは柔らかい笑みを浮かべてくれる。
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