嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「そう。
授業で聞いたのを覚えていたのか、元から知っていたのか詳しい事は分からないけど。
アンタは勉強をしなくてもこの単語が分かるって事」

「う、うん」

「つまり、この単語は勉強しなくていい。
最初にテスト範囲の単語の勉強から始めると、知っている単語も勉強しなきゃいけなくなるから時間の無駄だけど。
こうやって知らない単語をピックアップする事で効率的に勉強が出来るって訳」


なるほど。
純粋にそう思った。

考えてみれば今までは単語から勉強をしていたな。
そんな事を考えていればキミは何かをノートに書き込んでいた。


「和葉」

「え?」

「ここに単語の意味を調べて書いて。電子辞書で調べていいから。
それから20回ずつ練習をする」


ノートを見れば“意味”と“練習”のスペースが設けられていた。


「はーい」


シャーペンを走らせる音だけが教室に響いていた。

何か正輝って凄いな。
別にこれと言って凄い勉強方法ではないけど。
今までの私の勉強の仕方よりずっといいし。
それに……。

書くのを止めてキミの横顔を見つめる。

真剣な目つきで教科書を読む正輝。
その姿は思わず見惚れてしまうくらいに格好良い。


「何?分からない所でもあった?」

「べ、別に!!」


見ていたことがバレタみたいだ。
悪い事をしている訳ではないのに、過剰に反応してしまう。

どうしたんだろうか。
疑問に思ったが特に気にせずノートに文字を刻む。


「……」


何故かは分からないけれど。
キミと2人でいると落ち着くから勉強もはかどるんだよね。

いつもの煩い世界とは全く違う静かな教室。

いつもの教室は嫌いだけれど。
キミと2人の教室はそんなに嫌じゃない。

寧ろ好きかもしれない。

特に会話がある訳ではないけれど。
キミといると安心するんだ。

シャーペンの音だけが2人の間に流れて消えていく。
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