嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「綺麗……」


目に映るのは大きな砂浜とその先に広がる海。
この景色を見たのは日曜日ぶりだ。

そんなに前の事じゃないのに。
懐かしく感じる。

多分それだけこの世界が醜くて汚いって事なんだろう。


「5時間かけて来る価値は大有りね」


ひょいっと飛び降りて砂浜に着地する。
ずぼっとハマる感触が堪らない。

1人で楽しんでいれば波の音が一際大きく聞こえた。

まるで私を呼んでいるみたいに。


「……」


前触れもなく走り出した。
海に近付きたくて。

空も、海も。
何処までも青くて、境目を見失いそうになるほど。
一面の青が目を支配していく。

日差しは強いけれど。
そんな事が気にならないくらい気持ちが良い。

両手を空に向かって伸ばせばあの青を掴めそうで。
でも、掴めなくて。
宙を掴んだまま大きく伸びをした。

思う存分、空気をめいっぱいに吸い込んで。
嫌なモノを全て吐き出すように肩を下げる。

ココに来たのは2度目だ。

今日も、この前も。

いつだってココは私を優しく包み込んでくれる。

私の嫌いな感情は何1つなくて。
誰もいない空間だけがココにある。
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