嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「っで、本当にいた」

「……うん、いた」


何て言ったらいいかなんて分からない。

言葉の真偽はともかく。
キミの想いが嬉しくて無性に泣きたくなった。

熱くなる目頭。

泣いている所なんて見られたくなくて。
必死に堪える。
でも我慢が出来ずに頬を伝う一筋の涙。

優しく吹く風が髪を靡かせてくれているから。
今キミがこっちを向いても私の涙は見えないと思う。

不自然にならない様に繋がれていない方の手で涙を拭おうとした時。
急に私の体の向きが変わった。
キミがいつの間にか私の目の前にいたんだ。

慌てて俯いて顔を見られない様にしたけれど少し不自然だったかもしれない。
その不安は的中したみたいだ。


「どうして俯くの?」


キミの低い声が私の肩を揺らした。

でも、どうしても上を向く訳にはいかない。
涙を見られたくない事もあるけれど。
今キミの瞳を見たくないんだ。

だってさっきの言葉が。
もし偽りだったら私の心はきっと壊れてしまうから。

本当だとしても。
どんな顔でキミを見ていいかなんてわからないから。

だから今だけは正輝と目を合わせる訳にはいかないんだ。


「ねえ」

「何でもないから……」

「何でもなくなんかないでしょ」


正輝の手から逃れようと思ったけれど、キミはそれを許さなかった。
強く掴まれた手がそれを阻止をする。
キミから離れる事も、逃げる事も出来なくて。
ただ黙ったまま俯いていた。
それで終わってくれれば良かったのに。
キミの手が私の頬をすくう様に上げたから。
私の顔はキミの方に向いてしまった。
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