嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「な……何で泣いて……」


戸惑う正輝の顔。
なんとか目を合わせずにすんだから彼の心の声は入ってこない。

でも涙は見られちゃったな。
そんな事を呑気に考えていれば、頬に触れていたキミの手に力が籠められる。

私と目を合わせようとしているんだ。
抵抗をするけれどキミには敵わずに顔が動いてしまう。

最後の足掻きで、ぎゅっと固く目を瞑った。

キミの本当の心を知りたくなくて。


「和葉……?」

「お願い……離して……」

「嫌だ」


真っ暗な視界の中でキミの声だけが聞こえてくる。

波の音も風を切る音も。
私には届かなくて。

私の世界には正輝の声しかない。


「何で俺を見ないの?」


いつもと違う哀しそうな声。
でも目を開ける事が出来ずにいた。

だって今、目を開けたらキミと視線が交じり合ってしまう。
視線が交じり合えばキミの心の声が聞こえてしまう。


「見たくないの」

「……見たくないって俺を?」

「ちがっ……!!」


正輝を見たくない訳じゃない。
キミの心の声を聞きたくないだけなの。

でも、そんな事を言える訳もなくて。
開いていた口を無理やりと閉じた。


「和葉……アンタは何を恐れてるの?」

「恐れてる……?」


予想外の言葉に目を開けそうになったけれど、すぐに固く閉じた。

別に私は何かを恐れている訳じゃない。
ただ聞きたくないだけだ。
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