嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「うん、アンタは何かを恐れている。
だからそうやって目を閉じて、何かから逃げている」


キミの言葉がいやに大きく聞こえた。
深く胸に刺さる様なその言葉。
ドクンと心臓が脈を打ち煩いくらいに騒ぎ立てている。


「逃げてなんか……」


逃げてなんかいない。
そう断言できないのは、自分でも分かっているからだ。

キミの気持ちを知りたくなくて。
目を瞑って見ない様にしている。

心の声なんて聞き慣れているのに。
人間には裏があるなんて分かり切っているのに。

キミの裏の顔なんて見たくない。
正輝はいつだって裏表がなくて綺麗な心をしていた。

でもいつか。
キミの裏の顔を見てしまったら、私は立ち直れなくなると思う。

綺麗なキミしか見てこなかったからこそ。
そのままのキミでいて欲しいんだ。


「和葉。アンタが何を抱えているかは知らないけど。
……俺を信じてよ……」


すっと入り込むキミの声。
それは私の胸に引っかかっていた何かを優しく解いていく。

頬に触れる正輝の手がゆっくりと動いて髪の毛を撫で下ろした。
優しい手つきにトクンと胸が高鳴った。


「正輝……」

「大丈夫だから。
アンタは1人じゃない。俺がいるでしょ?」


顔を見なくたって分かる。
キミはフワリとした顔で笑っているって。

不思議だな。
キミを信じたいって、心が叫んでいる気がする。

正輝は大丈夫だって。
今まで見てきたキミも、これからのキミも。
どんな時だって正輝は真っ直ぐで綺麗だって。
私は信じたいから。

固く瞑っていた目をそっと開いた。
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