嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
ゆっくりと光が入ってくる。
目を開けばキミの顔があって、私たちの視線は交じり合っていた。


「(大丈夫だから。どんなアンタでも受け止めるから。俺を頼ってよ)」


頭には優しいキミの声。
その数秒後には、全く同じ言葉が口から出てくる。
それを聞いた途端に、涙が溢れ出してきた。
さっきの涙を上書きする様に。


「どうしたの和葉?泣かないで」


ポンポンとあやす様に背中を擦ってくれる正輝。
キミの体にしがみ付きながら声を押し殺して泣いた。


「っ……まさきっ……」


信じられなくてごめん。
一瞬でも逃げ出してごめん。
キミが誰よりも綺麗だって、私が1番知っているのに。

泣きながら正輝に何度も謝った。
心の中で。
キミには届かないけどそれでもいいんだ。


「私……もう逃げないから……。
……だから教えてっ……」


掠れた声は震えていて、情けないモノだったけれど。
キミは優しく笑ってくれる。


「……うん。
何でも訊いていいよ」


キミが頷いたのを確認をして私は口を開く。
正輝の目を真っ直ぐに見つめて。


「キミがくれた言葉も優しさも……。
全部本物だよね?偽りなんかじゃないよね?」

「え……?」

「正輝は綺麗な人だよね?
私の嫌いな醜い感情なんて持ってないよね?」


よっぽど切羽詰った顔をしていたのか、正輝は目を丸めたまま私を見ていた。

2人の間に流れる沈黙。
それが数秒なのか、数分なのかは、分からないけれど。
私にはとても長く感じたんだ。
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