嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「綺麗かどうかは分からない」


沈黙を破る様に低い声が落とされる。
その言葉に胸がキリッと痛んだ。
でもすぐにそれは治まっていく。
だってキミが優しい笑顔をくれたから。


「でも、俺は嘘なんか言わないよ。
自分が思った事を感じた事を……。
そのまま言葉や行動に出すだけだから」


息をする事も忘れてキミの目を見つめる。
正輝の心を知る為に。


「(だからアンタが嫌がってもこの手は離さないから、絶対に)」


醜い感情なんて、どこを探してもなくて。
キミの心の中は優しさで溢れていた。
眩しすぎるその優しさが私を包み込んでくれる。
心の声を実現する様に、キミは私の体を抱きしめた。
離れてしまわない様に、力強く。


「……離さないでっ……」

「え……?」

「私を離さないで」

「……うん」


キミの背中に腕を回しながら、負けじと強く抱きしめる。

涙が溢れ出てきて。
嗚咽が私を襲うけれど。
胸が苦しくなっていくけれど。

それでも嬉しかった。

キミが傍にいてくれる事が。
キミの腕の中にいられる事が。

幸せすぎて、何も考えられないくらいだ。
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