嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
失礼な奴だ。
そこはお世辞でも否定をしてくれ。
そう思ったけれど正輝の言う事は尤もだと思う。

鏡は見ていないけれど、あれだけ泣いたんだから目が腫れない訳ない。
それを裏付ける様に瞼は、ずんと重たいし開きにくい。

いつもより酷い顔をしているなんて容易に分かる訳で。
思わず『ハア』とタメ息を吐いた。


「でも駄目。
アンタは可愛いから。
その目でも阿保みたいに可愛いから、1人になんてしない」


キミの瞳は真っ直ぐすぎて。
目を逸らしそうになってしまうけれど。
それでも逸らす事が出来なかった。


「(アンタを1人で帰せる訳ないじゃん)」


キミの優しい声が聞こえてきたから。
その声を聞いた瞬間、体から力が抜ける様な気がした。
気持ち的にだけど。


「……分かったよ。
でも本当に遠いから覚悟してね」

「大丈夫」

「そう言えば正輝って家どこなの?
この辺りだよね?」


初めて会ったのはこの海だった。
だからこの近所なんだろうけど……。
流石に往復10時間は無理だよ。
12時回っちゃうよ。

どうしようかと迷っていれば彼は首を横に振った。


「違うよ。
俺もアンタと同じ方向で、ずーっと遠く」

「えー?」

「早く行くよ」

「はーい」


正輝は繋いだままの手を引っ張るとゆっくりと歩き出した。
私もキミの隣で歩く。

手から伝わってくる温もりが胸のドキドキを高めていた。
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