嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
嘘つきだらけの世界。
醜い感情が溢れ出す世界。

私がいつも心の中で思っている事。

くだらないこの世界にいたくなくて。
今まで綺麗な場所を求めて逃げ続けてきた。

それは私だけだと思っていた。
でも。


「……」


汚れのない瞳をしながら私を見る正輝。
キミはそんなに綺麗なのに。
私と同じ様にずっと苦しんでいたんだ。


「どうしたの?」

「……ううん、何でもな……」


そう言いかけて口を閉じた。

キミと私が嫌う嘘つきだらけの世界。

なのに私が嘘を吐くなんてあり得ない。
そう思った私はぎゅっと唇を結びキミを見つめた。


「私と同じだから」


さっきとは違う言葉をキミに向けた。
キミは驚きながらもしっかりと私を見ている。


「同じって……」

「私もずっと1人になりたかったんだ。
誰とも一緒にいたくない。
だって、世界は醜い感情で溢れているから」


私の頭に、耳に、ハッキリと届く醜い心の声。
この世界はいつだって歪んでいる。


「だけど」


短く言葉を切って黙り込む。
自分の言いたい事が分からなくなった訳ではない。
でも、言うか言うまいか迷っているんだ。


「……」


悩んでいれば、繋いでいた手に力が籠められた。
隣を見上げれば力強い目をするキミがいて。
そんなキミを見ていたら考えている自分が馬鹿みたいに思えた。


「私はキミに会えてよかった。
正輝はいつも真っ直ぐだから。
私の嫌いな醜い感情なんて微塵も感じなくて……。
醜い世界に染まってもいない。
正輝といると、私は凄く安心するの」


逃げなくても、隠れなくても。
綺麗な場所がすぐ傍にある。

息苦しい世界とは、喧騒の世界とは正反対な。
静かな空間がそこにはあるから。

だから。


「正輝の隣にいれば私は笑顔になれる。
どんなに辛くたって立っていられる」


私の居場所は正輝の隣なんだって思えるんだ。
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