嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「(こんな事になるならタオルを持ってこればよかった。
……本当に悪い事をしたな……)」


彼と目が合った瞬間に頭に入ってくる声。
でも、目の前の彼は口を開いていない。
その数秒後同じ様な言葉が耳に入ってくる。


「ごめん、タオル持ってなくて……」

「……大丈夫、多分すぐ乾くから」


そう言って空を仰いだ。
降り注ぐ日差しに目を細めながら、ただ上を向いていた。

今、無性に泣きたくなったから。

今まで15年生きてきて初めて逢った。
こんなに綺麗な人に。


「じゃあ付き合う」

「え?」

「服が乾くまで」


そう言って砂浜に座り込む男の子。
掴まれていた手首を引っ張られるから私も座り込む事になってしまう。


「アンタ名前は?」


寄り添って座れば男の子は首を傾げた。

こんな初対面の人に名乗るほど馬鹿じゃない。
だけど。


「白石 和葉(しらいし かずは)」


ご丁寧にフルネームで答えていた。


「白石……和葉……」


聞き慣れている名前なのに。
キミに呼ばれると何だかフワフワした気分になる。

彼は何かを考える様に目を瞑った。
でもすぐに目を開いて私を見つめた。


「和葉って呼んでいい?」

「う、うん」

「ありがとう」


そう言って男の子はニカッと笑った。
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