嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「ごめんってば!!」


スタスタと私の数歩前を歩く正輝を走って追いかけながら謝り続ける。
でもキミは止まる事なく歩いている。
私の方を振り向く事も無いし、明らかに怒っている気がする。


「……」


その原因は私だから文句は言えないけれど。

正輝はさっきまで教室で寝ていた私に怒っているんだと思う。
ただ寝ていた訳じゃなくて、正輝の胸板に寄り掛かって。


「寝た事はちゃんと謝ったジャン!
重たかったよね?ごめんね?」


キミの腕を掴めば漸く立ち止まってくれる。
少し安心をしていればクルリと顔だけを私に向けた。
でも、眉間にシワが寄っていて恐い。


「そんな事はどうでもいいよ」

「え?じゃあ何で怒って……」


訳が分からなくて首を傾げた。
でもキミの顔はどんどんと怖くなっていく。


「何?アンタは誰の前でも無防備に寝る訳?
しかもあんな間近で。体を密着させて」

「はい!?」

「どうなの?」


グイッと顔を近付けられる。
至近距離に顔があるせいでさっきまで静かだった胸が騒ぎ立てる。


「黙ってないで何とか言えば?」


更に近付く顔に我慢が出来なくなって半ば叫び気味に言葉を放った。


「正輝だから安心して寝ちゃったの!!」


言った瞬間に後悔をした。
私は何を言っているんだ。
本音とはいえ恥ずかしすぎるじゃん。
黙り込んでいれば、見る見るうちにキミの顔は紅く染まっていく。


「俺だから……?」

「そうだよ!
正輝以外の人とあんなに近くにいる事も想像出来ないし!!」


考えただけでゾワッとするよ。
ブンブンと頭を横に振っていればキミの顔から怒りの表情が消えていく。
< 82 / 336 >

この作品をシェア

pagetop