嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「着いちゃったね」

「……うん」


家の前で立ち止まり軽く話をする。
これがいつもの日課だった。
毎回、別れるのが辛いんだよね。

登下校でも、学校でも。
最近では休みの日まで。
正輝と2人でいる事が多くなったから、こうやって離れるのは寂しい。
それは正輝も同じ気持ちなのか私の手を離そうとはしなかった。


「明日テストだし帰る……?」


私が言えば、手を強く握りしめられる。
まるで、離さない、と言われているみたいだ。
私だって離れたい訳じゃないけれど。
勉強をしないといけないし……。
葛藤をしていればゆっくりと手が離れていく。


「あっ……」


思わず漏れた声は、驚くくらい哀しそうな声。
それを聞いたキミまで哀しそうな顔をしている。
これ以上、その顔を見ていたくなくて逃げる様に手を振る。


「また明日ね」

「うん、また明日……って待って。
……すっかりと忘れてた」


正輝は鞄を漁ると1冊のノートを取り出して私に差し出してきた。


「えっと……?」

「明日のテストの教科のまとめノート。
俺なりに大事な所とか纏めてみたから目を通して」

「え!?
でも……こんな大事なノート……」

「俺の分もあるから。これはアンタの」


そう言って笑うキミ。
自分の勉強だって忙しいはずなのに私の分まで作ってくれたんだ。
その気持ちが嬉しくて。
だらしなく顔が緩んでいく。


「ありがとう!!」

「べ、別に!ほら!!」


ノートを無理やり押し付けるとキミはそのまま自分の家へと向かって行く。


「明日頑張ろうね!!」

「うん」


こっちを見なかったけれど手だけは振ってくれた。
キミの不器用な優しさが温かくて。
暫くその場から動けなかった。
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