嘘つきの世界で、たったひとつの希望。
「和葉、明日からテストだな」

「あー……うん」


いつも通り家族4人で夕飯を囲んでいればお父さんが満面な笑みを浮かべて私を見ていた。
その話題は嫌だな。
テストの話なんてしたくないし。
そう思いながら俯くけれど、お父さんは構わずに話し続けていた。


「最近は夜遅くまで頑張っているみたいだから期待しているぞ」

「あんまりプレッシャーかけないでよ」


別に誰からも顔が見える訳でもないのに必死に笑顔を作る。
そうしていないと、話す事すら出来なくなりそうで。
笑いたくもないのにヘラヘラと笑い続けた。


「明日は和葉の苦手な英語だろう?
勉強を見てあげようか?」


お兄ちゃんが笑顔で私を見ていた。
そう言えば、テスト前には毎回教えて貰っていたな。
でも今回は……。


「ううん、大丈夫。
友達に教えて貰ったから!」

「友達?」

「うん!正輝だよ!
前に会ったでしょ?」

「正輝……ああ、一ノ瀬くんか」

「うん!」


お兄ちゃんと話していれば急にガタンとお母さんが身を乗り出して私を見てきた。
何事かと思えば輝いた目で見られる。


「正輝って、和葉の彼氏?」

「ち、ちがっ!!」


否定をするけれど何故か一気に熱くなる顔。
誤魔化そうとしてもそれ以上の言葉は出てこない。


「彼氏なんてまだ早いんじゃないか?(そんなモノを作っている暇があったら勉強をしなさい)」

「そんな事ないわよ!和葉も高2だしね(まあ、私は中学生の時からいたけど)」


急に頭の中に入ってくる声。
無意識に目を合わせていたみたいだ。

慌てて俯いたからそれ以上の声は入ってこなかった。
安心をしていれば視界の端には強く握りしめられた拳が目に映った。

それは私のモノではなくて。


「お、お兄ちゃん……?」


見上げれば怖い顔をしたお兄ちゃんが膝の上で拳を握りしめていたんだ。
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