蒼き華に龍の口付けを
御白音神社の鳥居は春にも関わらず、雪の様に白い。桜はここには植えられていなくて、いつの季節だか忘れてしまいそう。

「今日は有難うな。相手も満足していたってさ」

白音や黒露、七無さんは夕飯の買物があるからここには居ない。

「俺が仕入れたり、作ったりした物だから当然だ」

照れ隠しなのか素で言っているのか分からない言葉を返した。どう考えても後者の方だと思うけど。
こう言った言動で敵を作る性格だけど、それはいつもの事だから私や四季神も気にする様子は無い。

「ははっ、そうか、そうだよな。ラウリ、蒼華ちゃん帰り道も気を付けろよ」

空が青から茜色に変化していく。元の世界みたいに徐々にではなくてここは急速に変化する。

この世界はせっかちだ。記憶について何も進歩は無いのに時間はどんどん過ぎていく。
これではここの世界に染まって戻れなくなる。ラウリ達に迷惑をかけたくない。だから……。

「おい。行くぞ、今回は歩いて帰る」

「えぇ……別に平気だよ」

「お前は何度も力を使った。集中力だって切れているだろ」

それは正論だ。本音はとても眠く、意識が保っているのは奇跡だから。

突然ラウリに抱き上げられる。お姫様抱っこではない。真正面から見上げられるのは中々無いから恥ずかしい。

「ラウリ! 私は平気、降ろしても大丈夫だよ」

「じゃあ、俺達は帰る」私の言葉を無視して四季神に別れを告げる。

「おうよ。蒼華ちゃんはゆっくり休めよ」

「あの、四季が……」

「ではな」

ラウリは私に話す隙をくれずに歩き出す。いつの間にか、手を振る四季神の姿が桜に隠されていた。

「今日の夕飯は何だろうな?」

満足した笑顔で私に問いかける。さっきまで無表情だった癖に。だけど、ラウリにしてはあまりにも無邪気な笑顔だから何も言えずなかった。
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