おためしシンデレラ


「そんなもん、すぐだ」

「忙しないし、帰ってきてから京懐石食べに連れて行ってください。川床で鱧、食べたいです」

三村が僅かに機嫌を損ねたのが分かるけれど、無理強いはしないことも莉子は知っている。

ふぅっと三村が息を吐き出し、分かったと返事をした。



ごめんなさい。



莉子は嘘ばっかりついている。



タイから帰ってきたとき、もう莉子は三村の前からも会社からも去っている。



秘書として、少しは役に立ってたという自負はあるんですよ。

ちゃんと恋愛を持ち込まずに務めましたよ。

あの夜、初めて知った三村の温度を、莉子は一生忘れないと思う。



思いがけない結果を生んでしまったけれど、莉子が後悔しているのは三村に望まぬ関係を強いてしまったことだけ。


三村の莉子に対する罪悪感が、莉子が姿を消すことで少しでも軽くなりますようにーーーとそっと祈った。
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