おためしシンデレラ
元秘書の幸福


京都の中心部から北にバスで30分。6帖のワンルーム、簡易キッチン、ユニットバス。月3万5千円。貯金も僅かだけどあるし失業保険も退職金も貰えるけれど無職の莉子には贅沢過ぎるくらいだ。

仕事も探してみたけれど、妊婦を雇ってくれるような奇特な会社は当然ない。

莉子は大学時代の友人の紹介で週末だけ資格試験や模擬試験の監督官のバイトをしていた。


収入がないよりましだし。


産前、産後、どのくらい働けないのか分からないし、貯められるときに貯めておいた方がいい。


未だ悪阻も酷く、水分を摂るのさえ億劫だ。

それでもゼリーや果物などを少しずつとる。赤ちゃんのために。


本当は京都を出た方が良いのは分かっている。ただこの体調で見知らぬ土地に1人で行くのは不安だった。

実家に帰るにしても赤ちゃんを諦めることが不可能な週数までは頑張ると莉子は決めていた。

今日は検診日なのでもう少ししたら家を出なければならない。

支度をするために莉子は怠く重い身体を動かした。
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