おためしシンデレラ


突然、莉子の千鳥格子のワンピースの裾が引っ張られる。

不思議に思って目を遣ると小さな女の子。

「ん?」

愛くるしい笑顔につられて莉子も笑顔になる。

どこかで見たような・・・・・。

「小春!」

向こうから女性が走ってきた。

「すいません、娘が何かご迷惑を・・・・・歩けるようになったのが嬉しくてすぐにどこかに行ってしまって・・・・・」

女性が莉子の顔をじっと見る。

「莉子さん・・・・・?」

莉子も思い出した。

「あ・・・・・病院の・・・・・桜子さん?」

莉子が挨拶するためにベンチから立ち上がる。

急に立ち上がったのがいけなかったのか、視界がぐらりと回った。踏みとどまろうとしたけれどそのまま意識が暗転していく。

薄れていく意識の中で、桜子の叫び声を聞いたような気がした。



莉子は夢の中で泣いていた。

手を伸ばしたその先に、愛しい人がいるのに、その人を捕まえてはいけないと言われて。

その人はお前のものには決してならないと言われて。

伸ばした手は宙を切る。
莉子は膝を抱えて咽び泣く。

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