おためしシンデレラ


「面倒臭い男やな」

ふんっと鼻から息を吐きながら呟いた。



そう、面倒臭い男、三村和生。

あの立ち聞きの後、穂村課長に呼ばれてなんと莉子は社長秘書を拝命した。

『社長と結婚を期待しない枯れた女』認定されたってことか。

若干面白くない気がしたけれど、雇われの身としては拒絶は選択肢になかった。



扉の外から聞こえる少し早足の足音。
この3年間ですっかり耳に慣れた。
そのリズムで機嫌までわかるくらいに。

ドアが開くと同時に頭を下げる。

「おはようございます、社長」

「おう、マメ。おはようさん」

今日のご機嫌はまずまずか。

目の縁が少し腫れぼったいような気がするけれど。

社長室へ入る背中を見送り、コーヒーにミルクを用意して胃薬と水をつけてデスクに運んだ。

「マメ?」

「昨夜遅くに重いもの食べたんとちがいますか?今朝はブラックやなくてせめてミルク入れてください」

3年の間に社長のこのくらいの体調くらいは顔を見れば分かるようになった。


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