おためしシンデレラ
秘書の説教
小春日和の日曜日の昼下がり。
リビングから続きのウッドデッキの向こうの小さな庭では三輪車と格闘する男の子。
父親が一生懸命ペダルの踏み方を教えている。
窓からはそれを微笑みながら見守るお腹の大きな母親。
絵に描いたような幸せの情景。
莉子が憧れてやまないものが目の前にある。
「笑い事やないですよ、環《たまき》さん」
窓から離れ莉子の向かいのソファーに腰をおろした女性に思いっきり愚痴る。
臨月が近い彼女はお腹を摩りながら未だ笑いが止まらない。
「堪忍。・・・・・くくく・・・・・和生くん、よっぽど莉子ちゃんを手放したくないんやねぇ」
「・・・・・なにが良くてそこまで執着されるのかさっぱりわかりません!」
「あら、莉子ちゃんデキるコやもん。わたしの仕込みが良かったから」
莉子が入社して秘書課に配属されてからずっと教育係だったのがこの環で、なんと三村の従姉妹になる。
1人目を出産して暫くは仕事を続けていたが、2人目を妊娠したと同時に辞職した。