おためしシンデレラ
「ダメです。もう少し先にあるスーパーにしてください」
どこでも同じやろとブツブツ言いながらハンドルを戻す三村をチラリと横目で見てこれは大変かもと莉子は少しうんざりした。
三村を促して莉子が希望した有名な全国チェーンのスーパーで2人で買い物をする。
物珍しそうにキョロキョロと周りを見回しながらカートを押す三村に、家にある調味料や食材をヒアリングしながら莉子が買い物を進める。
これがカレシだったらもう少し心も浮き立つのだろうか。
周囲からチラチラと向けられる視線をものともせず歩く自信に溢れた横顔を盗み見る。
この人と一月も生活を共にする。
正直、それなりに緊張はしているけれどあんまりドキドキとかトキメキがない。
恐らくそれは莉子がこれを「業務」と捉えているから。
莉子が秘書になるときに言われた
『秘書とは恋愛しない』
あの言葉が妙な安心感を莉子に与えていた。
買い物が終わり、三村のマンションに向かう。地下駐車場に車を止めて、直接部屋に行くのかと思っていたら、1階のエントランスに連れていかれた。