おためしシンデレラ


コンシェルジュの常駐する高級マンション。ホテルのロビーと見まごう程の。

「小林さん」

三村がカウンターの内側に立つ50歳くらいのスーツを隙なく着こなした女性に声をかける。

「おかえりなさいませ、三村さん」

親しみやすそうな笑顔。

「小林さん、彼女は今日から一月ほど同居する秘書の豆田。不審者と違うから」

小林さんが「あら」と顔に表すけれどすぐにその表情をビジネスのものに戻した。

「コンシェルジュの小林です。困ったことがあれば何でも仰ってください」

「はい。よろしくお願いします」

毎日通るところだから、一応紹介してくれたらしい。小林さんに軽く頭を下げてエレベーターへ歩き出す三村の後を追う。

「わたしみたいな庶民には一生縁のない高級マンションですね」

エレベーターのなかで思わず口をついて出た。

「お前、それは志が低すぎやろ。これから結婚相手見つけるなら可能性は無限大やないか」

「いえ。身の程をわきまえた賢明さがわたしの取柄ですから」
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