Remember
出会い
男性恐怖症
セミの音が、嫌いだった。
「じゃあ、図書委員は放課後よろしくな。はい、解散!!」
セミの音に、担任の声が重なる。
(……あ……そっか、図書委員…………)
委員会の欄を見てやっと思い出してきた。
根っからのコミュ障が災いし、変わったばかりのクラスで積極的に楽な仕事に手を上げる事が出来なかった私は
皆が一番嫌がる図書委員へと勝手に名前を書かれた。
そりゃ当たり前だ。
夏休みだって、図書委員は整理に来なきゃならない。
「はは、どんまい冬奈。お前ほんとばかだよなぁ。」
「……るさいなぁ。」
皆が解散した後、1人の男の子が私の机に腰掛けてきた。
沖野大介。
昔からの幼なじみで、活発で、今では野球部のキャプテンを任されてる。
小馬鹿にしてくるような態度は昔から全く変わらない。
「だから俺と体育委員やりゃよかったじゃん。あんな誘ったのに。」
「嫌。知ってるでしょ、私が体育の成績最悪なの。」
「ばか。だからこそ、だろ。」
大介は一言でいうと、運動ばかだ。
体を動かすことが大好きで、体育の成績はずば抜けて良い。
その他はめっきりみたいだけど。
「おい、佐々木。」
「……!!」
後ろから自分を呼ぶ声に、ピクリと肩がはねた。
「今日委員会だろ。先行ってるな。」
ゆっくりと後ろを振り返ると、男の子が私を見ていた。
原田秋君。
端正な顔立ちに、サッカー部の副キャプテン。
成績も優秀。
そのルックスからは女子から膨大な支持を受けていた。
私は決して目を合わさず、2回ほど深く頷いた。
彼はそれを確認すると、図書室へ向かっていった。
「……相変わらず、無愛想だな。」
「……愛想よく出来たら、苦労しないよ。」
私には、男の子との間に大きな壁があった。
〝異性の前で声が出ない〟
事だった。
数年前、男性恐怖症と診断された。
私が話せるのは、この世でたった1人。
昔から馴染みのある大介だけだ。
いつからか分からない。
なぜそうなったのかも、わからない。
目の前にあるのはその真実。
「冬奈、お前大丈夫かよ。図書委員ってたしか2人きりだろ。」
「へ、平気だよ!原田くんと話すことなんかないし……多分。」
こんなんだから、恋なんてもちろんできない。
私はそれでいい。
ずっとそう思ってた。