潮風とともに
「ただいまー」
私が声をかけながらリビングに入ると、ソファに座って新聞を読んでいたお父さんとテレビを見ていたお兄ちゃんが勢いよく立ち上がった。
「っ瑠碧!!!おまえ大丈夫なんかっっ!」
そう勢いよく言うとお兄ちゃんの碧斗が私の腕を掴んだ。
「お兄ちゃん痛いよ。
それに大丈夫。事が事なだけに、なんか冷めちゃって。
悲しくもないし、落ち込んでもないよ。」
私がそっけなく言うと、お父さんは苦虫を噛んだような顔をして、またソファに座った。
「母さんから話しは聞いたけど……
おまえはそれでいいんか。
結納までしているのに浮気が原因での婚約破棄やから、慰謝料も取れる。
俺がきっちりとったるからな。」
お兄ちゃんは弁護士をしているからか、
こういった案件はよくあるのだろう。
先程からぶつぶつと何かを一人で言っている。
「もう、碧斗は……
でも、瑠碧ちゃん、結婚目前での不貞行為なんだから、キッチリやりなさい。それに、接近禁止の書面も用意したほうがいいかもね。逆上してストーカーになったりしても嫌だから。」
早苗さんがカフェオレを手渡しながら言った。
「分かったよ。早苗さんありがとう。
そういうのは、もうお兄ちゃんにお任せする。」
私は苦笑いで返した。
暫くするとチャイムがなり、お母さんが玄関に出ると
剛の御両親と剛が悲痛な面持ちでリビングに入ってきた。
ソファーに座った所で、早苗さんがコーヒーを出してくれた。