潮風とともに
急いで会社のフロアーに着くと、その足で彩花さんの元へと急いだ。
私と目があった彩花さんが怪訝な表情で私を見据える。
「おはようございます。遅れてすみませんでした。」
私は頭を下げて謝った。
コツンとハイヒールの音がしたかと思うと、頭を下げた私の視界の中に彩花さんのエナメルパンプスが入ってきた。
「瑠碧が遅刻なんて初めてね。その顔と何か関係があるの?……まぁ、言いたくないなら無理には聞かないけど。。。」
頭を上げると彩花さんが困ったような、どこか心配そうな顔をして私を見つめている、
まだ何かあったという確証がない。
何もなかったのかもしれないし、過ちがあったのかもしれない。
でも、今は何かを言うべきではないと思った私は、
彩花さんの目を見て顔を横に降った。
それを見た彩花さんがフーッと溜め息をつく。
「ならいいんだけど。何かあったのなら、溜め込まないように。瑠碧はいつも溜め込みすぎて溢れてから言うんだから、」
そう、言うと私の肩をポンポンと叩いた。
それだけで涙が溢れそうになる。
怖い……
信じきれない自分と、信じたいと思う自分がどっちなのか分からなくて、自分自身が分からなくて怖い。
どうしたらいいの……
心の支えのはずの波瑠がいない。
心が離れてしまっているのかもしれない……
私は彩花さんに頭を下げると、自分のデスクに戻ってパソコンを立ち上げた。
デスクトップを見ながら、考えるのは朝の電話。
夜、電話してみようか、、、
あの後、電話の電源はオフにしているから
連絡がきているのかもわからない。
ダメだ。
あと少しでここでの仕事も終わりなのに、こんな中途半端じゃダメ。
私は気持ちを切り替えるように、メールの確認をしたり、
休んでいた分の仕事の続きに没頭した。