潮風とともに
「そう、時計。どこのブランドだっけ。」
「え、そんなのまで知らないよ。
剛はパティシエだから仕事中は時計できないし、休みの日に会うことなんて親戚の集まりくらいやから……
でも先月の結納の後からは会ってないから。」
「でしょ。結納返しが時計だって事はもしかしたら分かることかもしれないけど、どこのブランドかまでなんて、分からないよね。
ましてやサラリーマンと違って普段は着けないわけだから。」
「その万里江、知ってたの?」
「知ってたの。タグホイヤーの時計って。
しかも、私結納の時に婚約指輪と、結納金貰ったんだけどね、
指輪は職場にもしていってたから目敏い万里江ならそれがカルティエかどうか分かるのかもしれないけど、結納金の話まではしたことがなかったんだよね。
どれくらい貰ったのかも知ってる感じだった。
剛の部屋で聞いた声、何処かで聞いたことがあるような気がしてたんだよね。」
「何それ。ありえないから……
剛が全部話してたってことでしょ?結納金の額も、指輪も全部……
あいつ本当に、どこまで腐ってんの!!!!
しかも破談になったことを知ってるってことは、破談が成立してからこの3日で連絡を取り合って話したってことやろ。」
美穂が深いタメ息をついた。
「今連絡をとっていようが、それはどうでもいいよ。
もう、私は関係ないから。
ただ、職場の後輩に手を出してた事に腹が立ったし、
破談になった原因が自分にあるくせに笑ってた事がゆるせない。」