5年目に宝箱を開けたなら
身につけていたボディーバッグを床に置き、彼が遠慮なくソファーに腰をおろす。



「わかってたけど、家の中ちゃんとしてるね。一花ちゃん、昔から綺麗好きだったもんなぁ」



キョロキョロと室内を見回しながら、千晴くんはそんなのん気なことを言う。

彼から視線を逸らしつつ、たぶん今の私は苦虫を噛み潰したような顔をしているのだろう。

部屋に関する千晴くんのつぶやきには特に返事をせず、本題を切り出した。



「……で、千晴くん。今日はどうしていきなりここに来たの?」

「ひどいなー、一花ちゃん。久しぶりの再会なのに、もうちょっと懐かしいとかうれしいとかいう感情ないの?」



責めるような言葉のわりに、それを言う本人はどことなく楽しげだ。

私はドキリとする。『懐かしい』……『うれしい』。

そんなの、思ってるに決まってる。私が5年前に大学を卒業し、実家を出てこの隣県に引っ越して来てから、千晴くんとは片手で数えるほどしか会っていないのだ。

実家が隣り同士で、小さな頃から知っている千晴くん。きょうだいがいない私は、ずっと彼を、本当の弟のようにかわいがっていた。

……こんな予想外の形でも、会えてうれしい。だけど私は、その感情を素直に表に出してしまうことを必要以上におそれている。

だって──だって、私は……──。



「ま、いーや。一花ちゃん聞いてない? 俺もこっちの方に就職決まったの」

「え、」

「住むマンションももう契約済み。わりとここから近いよ」



だから、またこれからご近所同士よろしくって伝えたくて。

何でもないことのようにスラスラと話す千晴くんのセリフに、愕然とした。


……嘘でしょ、なんで。

なんで……“あのとき”せっかく苦労して、離れたのに。

必死で気持ちを抑え込んで、彼から離れたのに。
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